本当は出会った時からわかっていたはずだ。
彼女が僕にとってどんな存在になるかなんてこと。
何をするでもなくはじめからいとも簡単にお互いの一番深い部分で惹かれあったから気付くことができなかったのだろう。
顔とかスタイルとか性格じゃない、お互いが必要としていたお互いの中にあった本心がまず惹かれあった。
だからほら僕は彼女の前ではあんなにまでも自分を乱す。
彼女は僕の深い部分をいつだって揺さぶってくるから…
だからほら彼女を失って僕は僕の存在まで見失いそうになる。
この広い世界の海で独りただ流されて彷徨って…
君がいなくては僕は何処にも行けないことを思い知る。
賑やかな場所は嫌いじゃない。
人が集まる所はいつだって僕に得たいの知れない高揚感を呼び起こさせる。
新たな出会いがある確率も高かったし、例え馴染みの顔ばかりでも次々に繰り出される話題に心は奪われた。
ただし、今夜のパーティにおいてはとてもじゃないがそんな気持にはなれなかった。
理由は明白だ。
今夜の面子は経済界の重鎮は無論のこと政治家に至るまで揃いも揃った堅苦しい形式のパーティだからだ。
本来ならいくらケイス家の御曹司だからといっても僕のような若僧が出入りするには少し早すぎる。
第一、これまで僕は最低限の付き合いでしか招待に応じたことはなく、
パーティというのは大概が気楽で若者が中心になれるものに出ていたから正直いって慣れていない。
父がどうしても目が離せない仕事があるからと代理を頼まれたが少々…いやかなり後悔していた。
知らない顔ばかりというわけではないが、気楽に話しかけられる相手は皆無といっていい。
まぁいずれは嫌でも出なきゃいけなくなるんだ…これも経験か…
そう思うことで無理矢理に沈む気分を押し込めた。
お決まりの退屈なパーティだけどシャンパンやワインは極上なのが救いだなと皮肉を込めながらそれを口に運び、
改めてパーティに興じる人々に目を向ける。
意外にも僕のような若僧がいないわけでもなかったが知った顔はない。
それ以上に若い「お嬢さん」が圧倒的に多いのに驚きとほんの少し興味をひかれた。
でもすぐにそれが何故かを理解する。
この社交場ほど未来のお相手を探すのにもってこいの場所はない。
例えその場にお目当ての本人が来ていなくてもその親と顔見知りになっておいて損はないというわけだ。
表面上は清らかで涼しげで上品でにこやかな笑顔を振りまいている彼女達のその裏の思惑に
打算的な欲が見え隠れしていて人間とはつくづく面白いと思う。
まあ端から見れば僕もそうなんだと思う。
上手に本音を隠してうわべを取り繕って欲があることなんて忘れた振りして上品にスマートに感情的にならず…
でも時には皮肉ってみせてユーモアに会話を盛り上げる。
今は単なるゲーム感覚で楽しんでいるが、やがては世間を上手く渡るためのものとなる。
だけど、それもまだもう少し先の話…今はまだまだ気楽に生きていきたい。
それにしても今夜のパーティは退屈だけどシャンパンは極上で美味かったから珍しく酔ってしまったのだろう、
急に僕は外の空気を吸いたくなって独りそっと賑やかな場から離れテラスへと向かった。
月や夜空の星が綺麗に見えるというのにテラスには人影がなかったから僕は遠慮なく思いっきり伸びをして息を吐いた。
「ふう…」
「はぁ…」
それに重ねられるように漏れ聞こえてきた溜め息の方に驚いて僕が目を向けるのとその溜め息の主がこちらに目を向けたのは同時だった。
人影がないと思っていた場所に人がいたことと、その人物がまさにさっきまで僕が不躾にも観察していた若い「お嬢さん」の類だったので更に驚く。
「あ…これは失礼」
それを悟られないようにそう言いながら相手を見ると彼女には見覚えがあった。
以前に何度か挨拶くらいはしていたはずだ。
「いえ、私の方こそ…確かジョニー・ケイス氏でしたわよね?」
「ええ、貴女はスーザン・トレイシー嬢ですよね?何度かパーティでご一緒したことが…」
そう彼女は今を華やぐ米社交界の名花と評判の女性、知らないはずはなかった。
彼女の周りには常に人が集まっていて彼女はいつだってその中心にいた。
それなのに不思議と彼女と挨拶以外の会話を交したことがない事実に今更ながら僕は気が付いた。
改めて彼女を見ると人好きのする笑顔を浮かべて、ほんの少し興味深そうにその瞳に好奇心を宿らせていた。
「ええ、そうでしたわね…」
そう彼女が答えると同時に僕の中にも彼女に対する好奇心が芽生えた。
僕は後にこの時のことを思い出しては恋のはじまりなんて意外にこんなものだと笑う。
「ご気分でも悪いのですか?トレイシー嬢」
「スーザンでいいわ、少し酔いを冷ましたくて…だから心配なさらないで」
まだどこかよそよそしい会話を交しながらも僕はやっと今日のパーティに出席できたことを幸福に思えてきた。
まだはっきりした確証ではないけれど何かのはじまりはいつも僕の心を弾ませる。
「それじゃ僕のこともジョニーと。今夜のシャンパンは極上だから僕もつい飲みすぎたんですよ…勿論、退屈しのぎにね」
冗談半分に本音を漏らす僕に彼女は可笑しそうに笑った。
その笑顔がはじめて見たような新鮮なものに思えた、いつだって僕が見かけていた彼女は笑顔に満ちていたはずなのに。
「私も退屈していたの、こういうパーティはあまり好きじゃないから。」
何だか意外な気もしなくはなかったけれど、それは外見上での認識しかない僕の思い込みに過ぎない。
僕達の様な立場から考えたらそれは当たり前のことなのかもしれない。
しかし僕はそんなことは考えないことにして彼女に微笑みかけながら言った。
「それじゃ抜け出しましょうか?」
僕の言葉に彼女は一瞬だけ唖然とした表情を見せ曖昧な笑みを浮かべて僕の真意を探る。
この瞬間の緊張と高揚感は今までに僕が感じたことのないものだった。
「貴方と?」
何気ない会話が一瞬にしてゲームの駆け引きになる。
いや、これは男と女の駆け引きといった方が正しいのか、恋の駆け引き…にはまだ早いか。
ともかくこの瞬間から僕はたまらなく楽しくなっていた。
「それともこのまま花でいたい?」
彼女が僕のその言葉にすっと笑みを消し、どこか驚いたように目を見張って僕を見つめてきた。
僕が彼女の何かに触れた瞬間、それが何かはその時の僕には知りようがなかったけれど。
しばらく沈黙が続き、やがて彼女の顔に息を呑むほど綺麗な笑顔が浮かんでいた。
それがもう答えだとわかっていたけれど僕は高鳴る鼓動と共に彼女の言葉を待つ。
「いいわ、行きましょう!」
僕の側に彼女がいる。
本当はそれだけでいいと今ならわかっている。
彼女と付き合うきっかけのことを思い出すなんて随分なかったような気がして思わずぼんやりと考え込んでいた。
「どうしたの…ジョニー?」
すると隣で眠っていたはずの彼女がいつのまにか目を覚まして窓の外を眺めていた僕に声をかけた。
「いや、どうして君の心境が変わったのかなって考えてたのさ。」
本当は違うけど、敢えて僕はそんな風に誤魔化した。
真実を告げる勇気を僕が持てるのはきっとまだ先のことだから。
けれど彼女はふいに僕から視線を外して何でもないことのように言う。
「変わったんじゃなくて…たぶんこれが本当の私なんじゃないかしら?」
僕はほんの少しだけ息をのんだ。
だって彼女はいつだってしっかりと自分を持っている。
何にも誰にも流されない自分を持って生きている。
「そんなに意外?私だって今まで生きてきた中で作り上げてきた私を持っていたのよ。」
彼女の言葉を聞きながら僕は静かにしかし確実に高鳴る鼓動を感じていた。
「きっとそんな私が貴方が求めているようなことを求められなくさせていたんだわ。」
僕は俯いてそっと目を閉じながら彼女を言葉を受け止める。
彼女の中だけに在った彼女の真実を。
「それに気がついたから…今は素直に求められる。それだけ。」
気がつけて素直になれた彼女は凄いと僕は思う。
僕が気づけたけれど未だに変われていないことを思うとなお更だ。
「さすがスーザン・トレイシー、君みたいな女はそういないよ。」
「人が真面目に話しているのに…貴方みたいな男もそういないわよ。」
彼女が少し怒ったように言いながら僕の方に顔を向けた、それに僕は手を伸ばして彼女の身体を引き寄せそっとキスをする。
僕の腕の中で彼女はもう…とぼやいたけれどその顔には笑顔がこぼれていたから僕もつられて笑う。
そして話のついでに彼女は言った。
「だからね、私は貴方以外の人とは共ににそれを求めたいとは思わないのよ。」
ああ…君はやっぱり凄いよ…
君なしでは何処へも行けない。
でも君さえいれば僕は何処へでも行けると知った。
―END―
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飛龍 絢美サマより、SS第2弾!!頂きました☆いえ〜い!!(超〜ハイテンション!)
す〜っごい甘〜いデザートです☆舞台ではキスシーン無かったですからねぇ…(途中から涼さんが勝手に、幕閉まる直前にほっぺにキスしてはりましたけど。)いや〜ホント満腹♪お腹いっぱい☆大満足ですo(*^-^*)o
『♪僕らの他に誰も 広がる妄想の海に 荒々しく晒されて 2人で楽しい夢を描こう〜』(主題歌を改悪)(汗) 絢美サマ、本当にありがとうございました〜!!! [2005.04.17]
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