―婚約までした女と大喧嘩の末に別れる―
そんなことは三文小説の中でも現実にもよくある話で今更それが僕の身に振りかかったからといって笑い話にもならない。
更にその鬱憤晴らしにパリで遊び飽けた挙句に今はマルセイユで日向ぼっこときたもんだから、
あんまりにもありきたり過ぎて情けなくなったりする気力も湧かない。
でも今はこの溢れんばかりの陽の光が気持良くてここから動く気には到底なれなかった。
まあ長い人生こんな時もあるさ…
そんな風に慰めにもならない慰めを自分にしてみる。
しかし何の為にこんな場所で留まっているのか明確な「答え」なんて知らない方がいい。
少なくとも今はまだ…
「失礼致します。ジョニー・ケイス様」
けれど変化はいつも突然にやってくるものだ。
それも自分が望もうが望むまいがお構いなしに。
プールサイドでのここ数日の日課となっている日向ぼっこをしていると
ホテルのフロント係らしいきっちりとしたスーツを着た男が僕に声をかけてきた。
「…何か?」
顔だけそちらに向けて気だるげに答える。
このホテルにチェックインした際に「1人でのんびりしたいから」と言ってある。
それなのに一流のホテルマンが敢えて声をかけて来たということは何かあったのか。
「パリからお電話が入っておりますが、いかが致しましょう?」
その言葉に僕は眉を顰めて、身体を起した。
このホテルは勿論のこと、マルセイユに来ていることすら誰にも告げてはいない。
一体、誰が?
心当たりのある人物を思い浮かべてみてすぐにそれをやめる。
「誰から?名前は?」
僕は何でもない風に電話の主を尋ねた。
「マイク・コナーという方からです。」
答えを聞いて、なんだ…という思いとやっぱりという思いが過ぎった。
確かに数日前までは同じパリにいた親友だが、彼は遊んでいる暇なんてなかったから
余計につまらなくなってこんなところにまで来ていた。
勿論、忙しい彼にここに居ることなんて告げてはいない。
「わかった、ありがとう」
言いながら僕は立ち上がってフロント係りに案内されるに従ってホテルの中に戻り電話口に出る。
新聞記者をしている彼に居場所を突き止められたからといって驚いたりはしないけれど
彼がこんなやり方をするのは珍しいと思った。
「…マイク? どうしたんだ?いきなり…」
『やあジョニー、久しぶりだなぁ元気?』
久しぶりに聞く親友の声は相変わらずという感じだった。
何となく電話でよかったと思ってしまう。
「僕はまあまあ元気だよ、マイクは?忙しいんじゃなかったの?」
『そりゃあもう忙しい、猫の手も借りたいくらいだよ!』
冗談めかして言っているが、実際のところ本当に忙しそうだった。
電話から漏れ聞こえてくる耳煩いくらいのざわめきにマイクが新聞社からかけてきていることを物語っていた。
「それはご苦労なことで…それで?用件は?」
僕なりに気を遣って手短に用件を聞こうとする。
『それが久しぶりに会話を交わす親友への態度かい?冷たいなぁジョニーは』
「忙しいって言うから気を遣ったんだ、寧ろ心温まって涙が出るんじゃないのか?」
マイクがわざと拗ねたようにそんなことを言うから僕もいつもみたいに軽口を叩く。
するとマイクは電話の向こうで明るく笑っていた。
『なるほどね、でも君が気を遣うなんてらしくないよ!』
それはいつもみたいに交わされてきた軽口で、僕とマイクの間では当たり前な会話。
しかしマイクの言葉は今の僕にはずしりと重くのしかかってきた。
やっぱり電話でつくづくよかったと思う、今の僕がどんな顔をしているかは知られたくはなかった。
『ところで君がスーザン・トレイシー嬢と別れたって噂を聞いたんだけど?』
別に何となく解っていた、電話の理由がどうせそんなところだろうってことくらいは。
それでもマイクは他の誰とも違って軽口を叩くのと同じ口調で聞いてくれるから有り難かった。
「…記事にでもしてくれるって?」
『まさか!これ以上仕事増やすなんて正気の沙汰じゃない!』
本気で迷惑そうなマイクに何だか少々複雑なものを感じたけれどこれ以上、軽口を叩くのはやめた。
どうしてマイクが電話なんて手段に出たかも察したから、ここは素直に甘えておこうと思う。
「まあ人生だから色々なことがなけりゃ面白くないよ…」
僕は愚痴にも似たぼやきを先程までの明るい口調とは裏腹に静かに口にした。
『そりゃそうだ。何もない人生なんてつまらないからね。』
マイクが変わらない調子で僕の言葉を肯定してくれるのを聞きながら僕はホテルの窓の外を見る。
青く澄み切った綺麗な空、真っ白で汚れのない雲、燦々と誰にでも平等に降り注ぐ太陽の光。
「今、パリはどんな天気? こっちはいい天気だよ。」
『…天気?雨が降ったり曇ったりしていていて、好い加減うんざりしてるよ。』
突然、天気なんて何気ないことを口にしてもマイクは余計な詮索はしないで当たり前に答えてくれる。
そんなことが今の僕にとっては救いになっているのだろうか。
「ふうん…でも今の僕にはそっちのほうが良かったのかもしれない。」
『君がそんな詩人だったとは知らなかったよ、ジョニー』
マイクのその答えに今度は僕が笑う、そのまま笑顔を浮かべて僕は言葉を続けた。
「だって『こんないい天気の日に頭を撃ったら気持ちがいい』って言うじゃないか…」
半分冗談でどこかの小説にあったのを思い出して口にした僕の言葉に一瞬の沈黙が流れる。
けれど次の瞬間に聞こえてきたのはマイクの大笑いする声だけだった。
僕は拍子抜けしてただ黙ってマイクのその反応を聞いていた。
『何もかもに嫌気がさすからって?ジョニー最高だよそれ!』
漸くそれだけ言うマイクだったけど、まだ可笑しそうに笑いつづけていた。
僕は仕方なくマイクが笑い終えるまで半分冗談なら残りの半分は何かについて考えてみる。
けれど答えはみつからなかったし、マイクの反応を聞いてると馬鹿らしくもなる。
「ところでマイク、仕事はいいのかい?」
そして好い加減に電話の向こうで笑いつづけているマイクに現実を知らせる。
『ああ、もうそろそろ切るよ。編集長がこっち睨んでるしね。』
「大変だな編集長殿も優秀すぎる記者を抱えて。」
『褒め言葉としてとっておくよ。それじゃまたなジョニー』
僕の嫌味にもマイクはそそくさと流し別れを告げる。
「ああ、それじゃまたパリで会おう。」
『あ、そうだ、もし本当に記事にするならこう書いておくよ!』
「何だって?」
『別れて何もかもに嫌気がさすほどスーザン・トレイシー嬢はいい女だったって!じゃあ!』
そんな言葉を残してマイクからの電話はぷっつりと切れた。
残された僕はというと今度マイクに会ったらどんなお礼をしようかと考えて始めている。
しかし何だかんだで離れていてもやっぱり親友、僕の性格を完全に把握しているように感じた。
わざと会いに来ないのも(来れなかった方が正しいとしても)電話という手段なのも…
何も考えてなさそうな顔して全てを見透かされている気にもなる。
けれど悪い気はしなかった。
それはマイクが僕を理解してくれているから。
今回ばかりはそれを思い知らされた。
そうして僕はついさっきまで知らないでいいと思っていたはずの「答え」をゆっくり
のんびりと日向ぼっこをしながら考え始めた。
次にいつ来るとも知れない変化の時の為にも。
―END―
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飛龍 絢美サマより、SS頂きました☆いえ〜い!!キリ番ゲットだぜぃ♪のキリリクとして。
次があるらしいですよっ!!!!!(大喜) 絢美サマ、本当にありがとうございました〜!!! [2005.04.16]
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